トップ / 東南アジア

アドボン・カンコンAdobong Kangkong レシピ

Adobong kangkongアドボン・カンコン

地域
東南アジア(フィリピン)
分量
3人分
公開
青い縁のほうろうの皿に盛ったアドボン・カンコン。茶色の煮汁にひたった空心菜と玉ねぎの薄切りに、色づけたにんにくが散っている。奥にご飯

この記事はAmazonアソシエイト・楽天アフィリエイトのリンクを含みます。

アドボン・カンコンは、空心菜をにんにくと玉ねぎで炒め、醤油と酢の煮汁でさっと炒め煮にしたフィリピンの家庭料理です。フィリピンでは空心菜を「カンコン」と呼びます。茎はしゃきっと、葉はしんなりと仕上げ、酸っぱくて塩けのある煮汁ごとご飯と食べます。

作り方は、タガログ語の大衆紙アバンテ・トゥナイトと、タガログ語のニュース誌ピノイ・ウィークリーに載ったレシピを軸にしました。そこにフィリピンの料理家や料理サイトのレシピを重ね、肉を入れず、醤油と酢を同じ量ずつ使う形にまとめています。

アドボン・カンコンとは

フィリピノ語(タガログ語)で「Adobong kangkong」と書きます。「アドボ」に、母音で終わる語のあとにつく「ン(-ng)」がついて「アドボン」となり、「カンコンのアドボ」という意味になります。カンコンは空心菜(ヨウサイ)のことです。地方によって呼び名が変わり、フィリピン科学技術省の機関PCAARRDの在来野菜のサイト「iVeg」には、ルソン島北部のラ・ウニオン州の「バランゲグ」、ビサヤ地方のイロイロ州の「タンコン」という名前が載っています。

アドボは料理名というより調理法

日本では「アドボ」というと、鶏肉や豚肉を酢と醤油で煮込む料理がよく知られています。タガログ語版ウィキペディアは、料理家クロード・タヤグがフィリピンの新聞フィリピン・スターに書いた記事(2012年)を出典にして、フィリピンでいうアドボは一つの料理よりも調理の仕方を指し、肉に限らないとしています。また、野菜のアドボの例として、カンコンのほか、たけのこ、なす、バナナの花、オクラを挙げています。

「アドボ」という言葉の由来

タガログ語版ウィキペディアは、フィリピンの辞書や料理書を引いて、アドボという言葉はスペイン語の動詞 adobar(漬け汁に漬ける、下味をつける)から来たとしています。また、この言葉が初めて記録されたのは、スペインのフランシスコ会士ペドロ・デ・サン・ブエナベントゥラが1613年にまとめたタガログ語の辞書『Vocabulario de la lengua tagala』で、そこでは「adobo de los naturales(土地の人々のアドボ)」と呼ばれていた、と説明しています。ただし、ウィキペディアがこの点で出典にしているのは辞書そのものではなく、歴史家ポール・ロデルの本(2002年)など、のちの時代の本や記事です。

英語版ウィキペディアは、名前はスペイン語から来ていても、フィリピンのアドボとスペイン風のアドボは、酢とにんにくを使う点は同じでも文化的には別の料理だとしています。フィリピンのアドボは、スペインや中南米のアドボと違って、唐辛子やパプリカ、オレガノ、トマトを伝統的には使わない、とも書いています。

植民地以前からの調理法とする見方

タガログ語版ウィキペディアは、アドボはフィリピン土着の調理法だとしています。植民地になる前の人々は、熱帯の気候の中で食べ物をもたせるため、酢と塩で調理したり漬けたりしていた、という説明です。また、酢を使うフィリピンの料理として、キニラウ(生の魚などを酢で締める料理)、パクシウ(酢で煮る料理)、サンクチャ(下煮)、アドボの4つを挙げ、あとの3つはキニラウから生まれたと考えられているとしています。

フィリピンのテレビ局GMAのニュースサイトの記事(2012年)も、アドボはマゼランが来る前から食べられていたとし、スペイン人が自分たちのものに似た地元の肉の調理と保存の仕方に出会って、それに名前をつけた、と書いています。GMAの記事は、根拠にした資料や人の名前を挙げていません。

フィリピンの新聞フィリピン・デイリー・インクワイアラーの論説面には、フィリピン研究を修めたスターリング・V・エレラ・ショーの寄稿(2024年)が載っています。エレラ・ショーによると、フィリピンの食の研究で知られるドリーン・フェルナンデスは、著書『Tikim』で、アドボはメキシコのアドボが土着化したものらしいと書きました。一方でフェルナンデスは、スペイン人がフィリピンの土着の調理法にアドボという言葉を当てた、というアメリカの食物史家レイモンド・ソコロフの見方も紹介しています。そして、フェルナンデスを含む多くの書き手が、もとの土着の呼び名は失われたとしている、とエレラ・ショーは書いています。

エレラ・ショー自身は、メキシコ由来という説の根拠は名前だけだと批判しています。そのうえで、アドボとはパクシウのことで、パクシウこそがもとの呼び名だと主張しています。また、醤油を使わない「アドボン・プティ(白いアドボ)」が植民地以前のもとのアドボとよく考えられていること、醤油は植民地時代に中国系の移民が加えたものらしいことも書いています。タガログ語版ウィキペディアも、アドボの味つけはもとは塩で、のちに醤油が使われるようになったとし、今も数は少ないものの、醤油を使わず塩で味をつけるアドボン・プティがあると説明しています。

ここまでに紹介した由来の説明の多くは、ほかの本や記事からの引用をさらに紹介したものです。adobar という語源、1613年の辞書、タヤグの説明はタガログ語版ウィキペディアが、フェルナンデスとソコロフの見方はエレラ・ショーが、それぞれ出典を引いて紹介しているもので、もとの辞書や本、記事はここでは確かめていません。アドボはパクシウだという主張は、エレラ・ショー自身のものです。

この記事の作り方

アバンテ・トゥナイト、ピノイ・ウィークリー、iVegに載ったラ・ウニオン州サン・ガブリエルのレシピは、どれも醤油と酢を同じ量ずつ使っています。この記事もそれにならいました。フィリピンの料理家ヴァンホ・メラーノのサイト「パンラサン・ピノイ」など、ここで読んだ7つのレシピのうち4つが、茎を先に、葉をあとから入れています。その手順と、色づけたにんにくを最後に散らすやり方は、パンラサン・ピノイのレシピを参考にしました。

アドボン・カンコンのレシピ:材料(3人分)

下ごしらえ 15分 加熱 10分

スパイスの配合 3人分で計0.5g
  • 黒こしょう0.5g

空心菜

  • 空心菜(カンコン)(根元を切る前の重さ)400g

炒める

  • サラダ油26g(大さじ2)
  • にんにく(みじん切り)30g(6片)
  • 玉ねぎ(薄切り)100g(小1個)

合わせ調味料

  • フィリピンの醤油(トヨ)(塩分は日本の濃口醤油で計算)(Amazon|楽天)30ml(大さじ2)
  • サトウキビ酢またはココナッツ酢(Amazon)30ml(大さじ2)
  • 水50ml

仕上げ

  • 黒こしょう(粗挽き)(Amazon|楽天)0.5g(小さじ1/4)

道具

  • 中華鍋(ふたのある直径26cm以上のフライパンでもよい)
  • ふた
  • 穴あきのお玉(揚げたにんにくを取り出す。小さなざるでもよい)

作り方

  1. 空心菜の下ごしらえ

    空心菜400gの根元の硬いところを3〜5cm切り落とし、残りを5cmの長さに切る。茎と葉に分け、それぞれ水で洗ってざるに上げ、水けをよく切る。水けが残ると煮汁が薄まり、熱い鍋に入れたときにはねる。

  2. 合わせ調味料を作る

    フィリピンの醤油30ml、サトウキビ酢またはココナッツ酢30ml、水50mlを器に合わせておく。

  3. にんにくを色づける

    中華鍋にサラダ油26gとにんにく30gを入れて中弱火にかける。混ぜながら2〜3分、薄いきつね色になるまで炒める。余熱で色が進み、焦げると苦くなるので、少し早めに見切る。穴あきのお玉で3分の1をすくってキッチンペーパーに取り、飾り用にする。

  4. 玉ねぎを炒める

    玉ねぎ100gを加え、中火で2〜3分、しんなりするまで炒める。

  5. 合わせ調味料を煮立てる

    換気扇を回し、合わせ調味料(醤油30ml、酢30ml、水50ml)を一度に注ぐ。湯気と酢の強いにおいが一気に立つので、顔を鍋から離す。中強火で煮立て、そのまま1分煮る。

  6. 茎を煮る

    空心菜の茎を加え、中強火のまま、煮汁をからめながら2分炒め煮にする。

  7. 葉を加えて仕上げる

    空心菜の葉を加えて煮汁とひと混ぜし、ふたをして1分蒸し煮にする。火を止め、黒こしょう0.5gを振って全体を混ぜる。

  8. 盛りつける

    煮汁ごと器に盛り、取り分けておいたにんにくを散らす。葉の色が変わらないうちに、すぐに食べる。

白いご飯に煮汁をしみ込ませながら、おかずとして食べます。

作り方の要点:茎を先に、葉は最後に1分

茎と葉で、火の通る時間が違う

空心菜の茎は中が空洞で、葉より厚みも繊維もあります。薄い葉はすぐにしんなりしますが、茎は火が通るのに時間がかかります。ここで読んだ7つのレシピのうち4つ(パンラサン・ピノイ、カワリン・ピノイ、ペッパー、iVegのラ・ウニオン州のレシピ)は、茎を先に入れ、葉をあとから加えています。この記事でも、茎を先に2分煮て、火を通しながらしゃきっとした歯ごたえを残します。

葉は最後に入れて、すぐに食べる

緑の野菜は、長く煮るほど色がくすみ、やわらかくなっていきます。パンラサン・ピノイのレシピは、葉を加えたら30秒〜1分炒め、ふたをして1分で仕上げています。この記事でも、葉は最後に加えてふたをし、1分だけ蒸し煮にします。煮汁につかったままの葉は時間とともにくすんでいくので、できたてをすぐに食べます。

家庭や地域による違い

ここで読んだ7つのアドボン・カンコンのレシピだけでも、作り方には幅があります。

  • 豚肉を入れる:7つのうち3つが豚肉を入れます。アバンテ・トゥナイトは豚肉100gを1.3cm角ほどに切って色づけ、小麦粉を振ってから水かスープで煮て、醤油と酢を加えます。料理家ラライン・マナロのサイト「カワリン・ピノイ」は豚バラ肉を、iVegのラ・ウニオン州のレシピは豚ひき肉100gを使います。この記事の作り方で入れるなら、手順3のあとに豚ひき肉100gを加えて5分ほど、色が変わって中まで火が通るまで炒めます
  • 醤油と酢の割合:パンラサン・ピノイとフィリピンの食のサイト「ペッパー」は醤油が酢の2倍、カワリン・ピノイは酢が醤油の2倍です
  • オイスターソース:ペッパーのレシピと、iVegのカマリネス・スル州のレシピは、オイスターソースを加えます
  • ローリエと砂糖:ピノイ・ウィークリーのレシピは、醤油と酢を同じ量ずつ合わせ、こしょうとローリエ、少しの砂糖を加えて、少しとろみがつくまで煮ます
  • 酢を煮立てる:カワリン・ピノイは、酢を入れたら混ぜずに2〜3分煮立て、酸味の角を飛ばしてから醤油と水を加えるとしています
  • イロンゴのアパン・アパン:パンラサン・ピノイは、カンコンをえびの発酵調味料バゴオンとココナッツ酢、醤油で炒め煮にし、揚げた豚肉(入れなくてもよいとしています)を合わせる「アパン・アパン」を、イロンゴ(イロイロ州を中心とする西ビサヤ地方の人々)の料理として紹介しています。iVegに載ったイロイロ州レオンのアパン・アパンは、酢を使わず、空心菜の葉をエシャロットとにんにくで炒め、塩かバゴオンで味をつけるだけです

アバンテ・トゥナイトは、キリスト教の聖週間(タガログ語でマハル・ナ・アラウ)が近づくと肉を控える人が多く、野菜の料理が好まれると書いています。ピノイ・ウィークリーは、物価が上がる中で、市場で安く買えて栄養のある野菜として空心菜を紹介し、このアドボを載せています。

手に入りにくい材料の代用

  • サトウキビ酢・ココナッツ酢:パンラサン・ピノイの酢の案内は、フィリピンの酢を1本だけ買うならサトウキビ酢とし、アドボもまずサトウキビ酢で作るようすすめています。ココナッツの花茎から採る樹液(トゥバ)の酢は、ココナッツの味はせず、発酵した香りが加わる、と同じ案内は書いています。カワリン・ピノイも、サトウキビ酢かココナッツ酢をすすめています。日本では、フィリピンやアジアの食材店のサトウキビ酢、通販のココナッツ酢が使えます。パンラサン・ピノイは、ココナッツ酢には樹液から作るものと、ココナッツ水から作るもっと穏やかなものがあるので、ラベルで原料を確かめるよう書いています。手に入らなければ、味のついていない米酢30mlで代用します。パンラサン・ピノイは、味のついていない米酢はサトウキビ酢より穏やかなので量を増やしてもよいとし、味つきの米酢は砂糖と塩が入っているので、そのまま置き換えずにほかの調味を加減するよう書いています。日本のすし酢も味つきの酢なので、この料理には使いません
  • フィリピンの醤油(トヨ):フィリピンやアジアの食材店で手に入ります。なければ、同じ量の濃口醤油で代用します。カビテ州のアドボを紹介したタガログ語の新聞バンデラの記事で、イゲ・ラモスは、日本の醤油は味が変わってカビテの味に合わないとして、中国の醤油かフィリピン国産の醤油をすすめています。この記事では、フィリピンの醤油の塩分を確かめられなかったため、塩加減を日本の濃口醤油の塩分で計算しています。フィリピンの醤油を使う場合、塩けは商品によって変わります
  • 空心菜:日本では主に夏に出回り、「エンサイ」の名前で売られていることもあります。茎の太い下の方は硬いので、手順1で切り落とします

保存

  • 冷蔵:保存容器に入れて2日。葉の色はくすみ、茎もやわらかくなります。温め直すときは、水15ml(大さじ1)を加えて中火でさっと温めます
  • 冷凍:空心菜の食感が損なわれるので、向きません

東南アジアのほかのレシピ

もっと知りたい人へ

  • ハロルド・マギー『マギー キッチンサイエンス』食材と加熱の仕組みを広く扱う、料理科学の定番Amazonで見る楽天で見る

出典

本文とレシピは、上の情報源を比べたうえで独自に組み立て直したものです。