ダール・マクニーDal Makhani レシピ
दाल मखनीダール・マクニー

この記事はAmazonアソシエイト・楽天アフィリエイトのリンクを含みます。
ダール・マクニーは、皮つきの黒いウラド豆に少しのラージマー(赤いんげん豆)を合わせ、トマトとバターと生クリームで長く煮込んだ北インドの料理です。黒っぽい茶色で、とろりと重いのが特徴です。いまではインド各地のホテルやレストランで出されています。
家庭では、豆を一晩水に浸し、圧力鍋で柔らかく煮てから、トマトのマサーラー(スパイスを炒めたソースのもと)と合わせて弱火で煮込みます。煮込む時間が長いほど豆が崩れて、とろみが増します。
ダール・マクニーとは
ヒンディー語では「ダール・マクニー」(दाल मखनी)と書きます。ダールは豆、またはその豆を煮た料理のことです。マクニーは「バター(マッカン)を使った」という意味で、ムルグ・マクニー(バター・チキン)のマクニーと同じ言葉です。
黒いウラド豆を煮たダールは、ダール・マクニーが生まれる前からありました。ヒンディー語のレシピでは「マー・キー・ダール」(直訳すると「お母さんのダール」)や「カーリー・ダール」(黒いダール)と呼ばれます。ヘッバールズ・キッチンのヒンディー語のレシピは、二つの違いを次のように説明しています。マー・キー・ダールはウラド豆だけを使い、40〜45分ほどで作れます。ダール・マクニーは、ウラド豆にラージマー、ときにはマスール・ダール(レンズ豆)も合わせて、数時間かけて弱火で煮込み、仕上げに生クリームを多く加えます。
分離独立のあと、デリーの店から
ヒンディー語版ウィキペディアは、ダール・マクニーはパンジャーブ地方の料理で、1947年のインドとパキスタンの分離独立のあと、パンジャーブから移ってきた人々によって広まったとしています。同じ項目には、クンダン・ラール・グジュラールがデリーのダリヤガンジに開いたレストラン「モーティー・マハル」で、この料理を地元の人々に紹介したとあります。
インドのジャーナリストで料理評論家のヴィール・サングヴィは、今の形のダール・マクニーはモーティー・マハルが考えたものだ、とする記事を書いています。記事では、ホテルチェーンITCの総料理長(記事の当時)だったマンジート・ギルも、そう認めたとしています。ギルの話として、モーティー・マハルの形が出てくるまでダールにトマトを入れる人はおらず、パンジャーブの家庭で黒いダールにクリームを合わせることもなかった、と紹介しています。また、サングヴィの友人ゴータム・アーナンドの説も紹介しています。皮つきのウラド豆を煮るダールは、東パンジャーブやラーホールでは作られず、ペシャーワル(現在のパキスタン北西部)のパンジャーブ人の得意料理で、分離独立のあと彼らが持ち込んだ、という説です。
誰が考えたのか:グジュラール家とジャッギー家の主張
デリーのモーティー・マハルは、英語版ウィキペディアなどによると、1947年にペシャーワルから移ってきたクンダン・ラール・グジュラールとクンダン・ラール・ジャッギーらが開いた店です。一方、グジュラール家が経営するモーティー・マハルの自社サイトは、店は1920年にペシャーワルでグジュラールが開いたとしています。ダール・マクニーを誰が考えたのかについては、二人の子孫の主張が分かれています。
モーティー・マハルは、自社のサイトで、グジュラールがバター・チキンを考えたのと同じ頃に、トマトとクリームを使う同じ作り方を黒いウラド豆に応用して、ダール・マクニーが生まれたと説明しています。
一方、ジャッギー家の店「ダリヤガンジ」は、自社のサイトで、ジャッギーが1947年に2人の仲間とダリヤガンジに店を開き、客のスチャー・シンに勧められてマー・キー・ダールを作り直し、一晩かけて煮込んだものをダール・マクニーと名づけたと説明しています。英語版ウィキペディアでは、「クンダン・ラール・ジャッギー」の項目が、新聞記事を引いて、ジャッギーが客の意見をもとに考えたとしています。「ダール・マクニー」の項目は、ジャッギーとグジュラールが考えたとし、時期を1950年代の初めとしています。
2024年には、グジュラール家がジャッギー家を相手に、デリー高等裁判所に訴えを起こしました。ダリヤガンジが「バター・チキンとダール・マクニーの考案者」を名乗る宣伝をやめるよう求めたものです。インドの新聞ザ・ステーツマンに載ったIANS通信の記事によると、グジュラール家はグジュラールがこれらの料理を考え、分離独立のあとにインドへ持ち込んだと主張しました。ダリヤガンジの弁護士は、最初のモーティー・マハルはペシャーワルで両家の先代が開いたものだと反論しています。
店ごとに違う配合
配合は、店や作り手によってかなり違います。モーティー・マハルのサイトに載っているシェフ、ニル・グプタのレシピはウラド豆だけを使い、トマトのピューレとバター、生クリームで仕上げます。サングヴィの記事で紹介されているモーティー・マハルのレシピは、半分がウラド豆、残りをラージマーとチャナー・ダール(ひよこ豆の挽き割り)で分けています。ヒンディー語のレシピでは、シェ・シュチがウラド豆2に対してラージマー1を使います。ニシャー・マドゥリカーも同じ2対1ですが、ラージマーの代わりに黒いひよこ豆を使ってもよいとしています。インドの料理家クナール・カプールやランヴィール・ブラールのレシピは、ウラド豆3.5〜4に対してラージマー1です。
この記事では、ウラド豆4に対してラージマー1にして、黒いウラド豆の味を主役にします。玉ねぎは使わず、モーティー・マハルやカプールのレシピのように、トマトとバターと生クリームを中心にします。砂糖を少し加えるのは、モーティー・マハルのサイトのレシピにならったものです。
ダール・マクニーのレシピ:材料(6人分)
下ごしらえ 10時間10分(浸水を含む) 加熱 3時間15分
- カシュミーリー・チリ5g
- クミン1.2g
- カスーリー・メーティー1g
豆を浸す
豆を煮る
- 水900ml
- しょうが(薄切り)10g
- 塩4g(小さじ2/3)
マサーラー
煮込む
- 水200ml
作り方
豆を浸す
ウラド豆とラージマーを合わせ、水を替えながら3〜4回洗い、浮いた豆や小石を取り除く。ボウルに入れて水1Lを注ぎ、10〜12時間浸す。室温が25℃を超えるときは冷蔵庫に入れる。ざるにあけ、浸した水は捨てて、さっと洗う。
圧力鍋で煮る
圧力鍋に豆、水900ml、しょうが(薄切り)10g、塩4gを入れる。豆は煮ると膨らんで泡も出るので、豆と水が圧力鍋の1/3を超えないようにする。強火にかけ、沸いて浮いた泡を取ってからふたをする。圧力がかかったら弱火で30分加圧する。火を止め、圧力が自然に下がるまで15〜20分おく。ウラド豆が指で軽くつぶれ、ラージマーも芯まで柔らかくなっていなければ、もう5〜10分加圧する。ラージマーは生煮えだと食中毒を起こすので、硬さが残るうちは先に進まない。煮汁は捨てない。
トマトをピューレにする
豆を煮ているあいだに、トマトをざく切りにし、ハンドブレンダーでなめらかなピューレにする。
マサーラーを炒める
厚手の鍋にバター40gを中火で溶かし、クミン1.2gを20秒炒める。弱火にしてしょうが(すりおろし)10gとにんにく(すりおろし)10gを加え、1分炒める。カシュミーリー・チリパウダー5gを加えてひと混ぜし、焦げる前にすぐトマトのピューレを加える。はねやすいので、鍋から顔を離して注ぐ。塩10gと砂糖3gを加えて中火にし、ときどき混ぜながら、とろみがついて鍋の縁にバターがにじみ出るまで10〜12分炒め煮にする。
豆と合わせて長く煮込む
豆を煮汁ごと鍋に加え、水200mlを加えて混ぜる。中火で煮立ったらいちばん弱い火にし、ふたを2〜3cmずらしてのせ、1時間30分〜2時間煮込む。鍋底が焦げつかないように、10〜15分ごとに底からかき混ぜる。30分ごとに、お玉の背で豆の一部を鍋の側面に押しつけてつぶす。お玉ですくうと、とろりと落ちる濃さになればよい。
バターと生クリームで仕上げる
弱火のままバター40gを加えて溶かし混ぜ、ときどき混ぜながら10分煮る。生クリーム150mlを加え、混ぜながら2〜3分温める。煮立てないようにする。カスーリー・メーティー1gを手のひらでもみながら加え、ひと混ぜして火を止める。
ナーンやタンドゥーリー・ローティー(窯で焼いた全粒粉のパン)、ジーラー・ライス(クミンで炊いたバースマティー米)を添えて食べます。
料理科学:豆を浸して、長く煮る理由
浸水で、大きさの違う豆の煮え方をそろえる
乾燥した豆は、中まで水が入らないと柔らかくなりません。ウラド豆は小さく、ラージマーは大きいので、水が中心まで届くのにかかる時間も違います。10〜12時間浸して、先にどちらにも水を吸わせておくと、煮る時間が短くなり、煮え方もそろいやすくなります。
ラージマーは、しっかり沸騰させる
ラージマー(赤いんげん豆)には、フィトヘマグルチニンというたんぱく質(レクチン)が、ほかの豆より多く含まれることがあります。生や加熱が足りない赤いんげん豆を食べると、1〜3時間ほどで強い吐き気やおう吐、下痢が起こることがあります。
カナダ保健省は、乾燥した赤いんげん豆を5時間以上水に浸し、その水を捨ててから、10分以上しっかり沸騰させて煮るよう勧めています。スロークッカーのような低い温度で煮る調理器具では、このたんぱく質が壊れないとしています。香港の食物安全センターは、85℃で1時間煮た豆でも毒性が残っていたと紹介しています。
浸した水を捨てて、圧力鍋で圧力をかけて煮るのはそのためです。家庭用の圧力鍋の中は100℃を超えます。弱火でことことと煮込むのは、豆がしっかり柔らかくなってからにします。
長く煮るほど、とろみが増す
柔らかく煮た豆をさらに長く煮込むと、豆がくずれて、煮汁にとろみがつきます。途中で豆の一部をつぶすのも、とろみを出すためです。
黒いウラド豆には、アラビノガラクタンという多糖類が含まれています。インドの中央食品技術研究所(CFTRI)の研究者らが1978年に発表した論文では、ウラド豆の粉から取り出したこの多糖類を水に分散させると、pH5〜7(弱い酸性から中性)で強い粘りが出ました。ダール・マクニーのとろみに、この粘りも関わっている可能性があります。ただし、この論文はダール・マクニーそのものを調べたものではありません。
トマトは、ここで紹介したレシピと同じく、豆を圧力鍋で柔らかく煮てから合わせます。
バターと生クリームの仕上げ
生クリームは煮立てない
仕上げのバターは、弱火で混ぜながら煮汁になじませます。この記事では、乳脂肪分35%以上の生クリームを使います。生クリームを入れたあとに強く煮立てると、脂が分かれて表面に浮くので、煮立てずに温める程度にします。
冷めると固くなる
先のウラド豆の多糖類についての論文では、その粘りは温度が上がると弱まりました。でんぷんのとろみも、冷めると強くなります。ダール・マクニーは、熱いうちはとろりとしていても、冷めると固くなります。温め直すときに水を足すのはそのためです。
家庭のマー・キー・ダールと、ホテルのダール・ブハーラー
家庭のマー・キー・ダール
ヘッバールズ・キッチンのマー・キー・ダールは、ウラド豆だけを圧力鍋で煮て、玉ねぎとトマトのマサーラーと合わせ、10分ほど煮て仕上げます。生クリームは入れなくてもよいとしています。この記事の材料で作るときは、ラージマーを抜いてウラド豆を250gにします。手順5では水200mlを入れずに15〜20分煮込み、手順6のバターと生クリームを省きます。
一晩煮込むダール・ブハーラー
ホテルチェーンITCのレストラン「ブハーラー」には、「ダール・ブハーラー」という黒いダールがあります。サングヴィの記事では、マンジート・ギルは、モーティー・マハルがなければダール・ブハーラーは生まれなかったとしています。同じ記事によると、ダール・ブハーラーはウラド豆だけを使い、弱火で一晩煮込んで、そのあとも火から下ろしません。とろみは、この長い煮込みから生まれるとしています。
家庭で長く煮込むときは、手順5を2時間よりも長くしてかまいません。焦げつかないように、厚手の鍋でいちばん弱い火にし、こまめに底から混ぜます。煮詰まったら、湯を50mlずつ足します。
炭でいぶすドゥンガール
インドでは、真っ赤に熾した炭に油をたらし、その煙でダールをいぶす「ドゥンガール」という方法で、燻製の香りをつけることもあります。ダサナー・アミットのレシピの方法では、炭1かけをガスの火で真っ赤になるまで焼き、小さなステンレスの器に入れて、ダールの上に置きます。炭に植物油2g(小さじ1/2)をたらし、煙が出たらすぐにふたをして1分おき、器ごと取り出します。
炭を焼くときと煙を出すときは、必ず換気扇を回し、窓を開けます。炭はトングで扱い、使い終わったら水に浸けて完全に火を消します。
手に入りにくい材料の代用
- 黒いウラド豆(皮つき・ホール):インド食材店で「ウラド・ダール(ホール)」「サーブト・ウラド」として売られています。和名はケツルアズキで、日本ではブラックマッペとも呼ばれます。皮をむいた白いものや挽き割りのものでは、黒い色と粒の残る食感が出ないので、皮つきのホールを使います。
- ラージマー:乾燥した金時豆(いんげん豆の一種)を同じ量使えます。金時豆も、赤いんげん豆と同じように浸した水を捨て、しっかり沸騰させて煮ます。
- 赤いんげん豆の水煮缶:汁気を切って120gを使います。手順1と2はウラド豆だけで行い、手順5で豆の煮汁と一緒に加えます。缶詰は加熱済みなので、そのまま使えます。
- カシュミーリー・チリパウダー:色が濃く、辛さは穏やかな唐辛子の粉です。パプリカパウダーを同じ量使い、辛みを足したいときは一味唐辛子を小さじ1/4まで加えます。
- カスーリー・メーティー:乾燥したフェヌグリークの葉です。なければ省きます。
- 完熟トマト:トマトの水煮缶(ホール)300gをハンドブレンダーにかけて使います。
- 圧力鍋がないとき:厚手の鍋に、手順2の材料を水だけ1.5Lにして入れます。ふたをせず強火で沸騰させ、泡を取りながら10分以上しっかり沸騰させます。そのあとふたをして弱火で1時間〜1時間30分、ウラド豆が指で軽くつぶれ、ラージマーが芯まで柔らかくなるまで煮ます。豆が煮汁から出たら湯を足します。生の豆からスロークッカーや保温調理で煮るのはやめます。
保存
- 冷蔵:保存容器に入れて2日。冷えると固くなるので、温め直すときに水50mlを足し、弱火で混ぜながら温めます
- 冷凍:手順5まで終えた状態で1か月。解凍して温め直してから、手順6を行います
北インドのほかのレシピ
もっと知りたい人へ
出典
- Nisha Madhulika「दाल मखनी - Dal makhani Recipe」(ヒンディー語)
- Chez Shuchi「दाल मक्खनी」(ヒンディー語)
- भारतकोश「दाल मक्खनी」(ヒンディー語)
- Hebbar's Kitchen「माँ की दाल रेसिपी | maa ki dal in hindi | काली दाल | उड़द की दाल」(ヒンディー語)
- Wikipedia「दाल मखनी」(ヒンディー語)
- Kunal Kapur「Dal Makhani Recipe By Chef Kunal Kapur」(英語)
- Ranveer Brar「Dal Makhani दाल मखनी」(英語)
- Dassana's Veg Recipes「Dal Makhani Recipe (Authentic Punjabi Style)」(英語)
- Vir Sanghvi「The modern dal makhani was invented by Moti Mahal」(英語)
- Moti Mahal「Dal Makhani History: Punjabi Recipe That Revolutionized The Face Of Black Lentils Forever」(英語)
- Moti Mahal「Legacy of Moti Mahal | The Culinary Origin of Butter Chicken , Tandoori Cuisine & Dal Makhani」(英語)
- Daryaganj「By The Inventors Of Butter Chicken & Dal Makhani」(英語)
- The Quint「Moti Mahal or Daryaganj? Delhi HC Steps in To Settle the Butter Chicken Debate」(英語)
- The Statesman「Who really invented Butter Chicken and Dal Makhani? Delhi HC to decide」(英語)
- Wikipedia「Dal makhani」(英語)
- Wikipedia「Kundan Lal Jaggi」(英語)
- Health Canada「Lectins in Dry Legumes」(英語)
- Centre for Food Safety (Hong Kong)「Food Safety Bulletin 97th Issue (06/2024)」(英語)
- Journal of Agricultural and Food Chemistry(CFTRI Repository)「Isolation and characterization of arabinogalactan from black gram (Phaseolus mungo)」(英語)
本文とレシピは、上の情報源を比べたうえで独自に組み立て直したものです。