フィッシュ・モーリFish Molee レシピ
ഫിഷ് മോളിフィッシュ・モーリ

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フィッシュ・モーリは、インド南西部のケーララで食べられている、ココナッツミルクの魚の煮込みです。辛みには青唐辛子を使い、しょうがやシナモン、カルダモンで香りをつけます。色はターメリックの淡い黄色で、辛さは穏やかです。
ケーララでは、米粉の生地を発酵させて薄く焼いたアッパムや、ご飯と一緒に食べます。薄いココナッツミルクで魚を煮て、最後に濃いココナッツミルクを加え、煮立てずに仕上げるのが作り方の要です。
フィッシュ・モーリとは
マラヤーラム語では「フィッシュ・モーリ」(ഫിഷ് മോളി)と呼ばれます。前半は英語の「フィッシュ」(魚)です。ケーララ州観光局のマラヤーラム語のページや、マラヤーラム語の女性誌『ヴァニタ』、ニュースサイト『アンウェーシャナム』のレシピの見出しにも、この呼び名が使われています。英語では molee、moilee、molly などと綴られ、マラヤーラム語で魚を意味するミーン(meen)をつけて、meen molee と書かれることもあります。
ポルトガルとのつながり
ケーララ州観光局のマラヤーラム語のページは、フィッシュ・モーリをポルトガルの料理で、ケーララにも愛好者が多いと紹介しています。いつもの魚料理と違って辛さが控えめなので、子どもにも好まれるとしています。英語のニュースサイト「オンマノーラマ」に載った、ケーララの料理書で知られるK.M.マシュー夫人のエビのモーリのレシピも、モーリの起源を、ポルトガルがケーララの海辺の料理に与えた影響にさかのぼるものとしています。
ムンバイに住み、ケーララの伝統的な料理を動画で紹介しているソーバ・ヴァルギースは、アラブ首長国連邦の新聞ガルフ・ニュースへの寄稿で、フィッシュ・モーリをケーララ中部の伝統的な料理とし、その話はポルトガル人がケーララにいた15世紀にさかのぼるとしています。同じ記事は、ケーララの魚のカレーがポルトガルの役人には辛すぎたため、モリーという女性が赤唐辛子を青唐辛子に替え、ココナッツミルクで辛さを和らげた、という伝説を紹介しています。記事は、この女性の名前から料理名がついたとしています。
キリスト教徒の台所から
ケーララのキリスト教徒には、使徒トマスの布教にさかのぼると伝えるシリア・キリスト教徒(聖トマス・キリスト教徒)と、ポルトガル人の到来のあとに広がったラテン典礼のカトリック教徒などがいます。
ケーララ州観光局の英語のページ「キリスト教徒の料理」は、フィッシュ・モーリを神学校の台所から生まれた料理としています。同じページによると、外国人の宣教師が神学校を開くと、ヨーロッパ風の献立が入ってきました。台所を預かる料理人を通じて、英国とポルトガルの影響が献立に入り、外国人の料理人が秘密にしていたレシピは、神学校で開かれた共同の宴を通じて広まりました。ページは、豚肉のヴィンダールーや鶏肉のマッパス、シチューと並んで、フィッシュ・モーリもこうして広まったとしています。また、フィッシュ・マッパスとフィッシュ・モーリは同じ料理だとも書いています。ただし、フィッシュ・モーリをどの宗派の料理とも書いていません。
名前の由来の諸説
名前の由来には、ほかにもいくつかの説があります。
- ポルトガル語の molho、または料理人の名前:筆者名をイニシャル(SM)だけで記しているブログ「Essence of Life - Food」は、コーチン(現在のコチ)のキリスト教徒のレシピとしてフィッシュ・モーリを紹介しています。その記事は名前の由来として、ポルトガル語で「ソース」を意味する molho がなまったとする説と、植民地時代のヨーロッパ人の口に合うよう料理を洗練させた「ムーリー」という料理人にちなむとする説を挙げています。どちらの説にも出典は示していません。
- マラヤーラム語の料理名:英語版ウィキペディアは、英国の食物史家アラン・デイヴィッドソンの『Seafood of South-East Asia』を引いて、この名前は南インドのマラヤーリ(マラヤーラム語を話す人々)が「モリ」と呼ぶカレーと関係があるかもしれないとしています。同じ項目は、この料理の起源をポルトガルともインドとも考えられるとしています。
英語版ウィキペディアは、モーリが英国の統治の時代に、シンガポールなど東南アジアにも広まったとしています。マレーシアの新聞ザ・スターも、英国の統治の時代にケーララのマラヤーリがマラヤ(現在のマレーシアの半島部)に持ち込んだと言われている、と書いています。
この記事の配合
ヴァニタに載ったリズ・エマニュエルのレシピは、魚に塩とターメリックをまぶして軽く焼き、シナモン、カルダモン、クローブ、しょうが、にんにく、青唐辛子、玉ねぎを炒め、二番搾りのココナッツミルクで煮て、一番搾りを加えて火を止めます。オンマノーラマに載ったタニヤ・マシューのレシピも、同じ3つのホールスパイスを使います。ケーララ州観光局のレシピは、シナモンなどの代わりにマスタードシードを油ではじけさせ、生の魚を三番搾り、二番搾り、一番搾りの順に煮て、最後にレモン汁を加えます。
この記事で配合の参考にした魚のレシピ7本のうち5本は、魚を先に焼いてから煮汁に入れていました。この記事でも、ヴァニタのレシピにならって魚を先に軽く焼き、ホールスパイスを使います。ヴァニタの別のレシピにならって、魚の下味に黒こしょうを加え、ケーララ州観光局のレシピにならって、仕上げにレモン汁を加えます。
フィッシュ・モーリのレシピ:材料(4人分)
下ごしらえ 35分(魚の下味を含む) 加熱 25分
- ターメリック2.2g
- 黒こしょう1.2g
- シナモン1g
- グリーンカルダモン0.6g
- クローブ0.3g
魚の下ごしらえ
ココナッツミルク
- ココナッツ(すりおろし)(生または冷凍)(Amazon)250g
- ぬるま湯(一番搾り用)100ml
- ぬるま湯(二番搾り用)360ml
煮る
道具
- ミキサー
- さらし(目の細かいざるでもよい)
- 厚手のフライパン(直径26cm前後。ふたのあるもの)
作り方
魚に下味をつける
サワラの水気をキッチンペーパーで拭き、ターメリック1.5g、黒こしょう1.2g、塩3gを全体にまぶす。冷蔵庫で20分おく。
一番搾りをとる
ミキサーにココナッツ250gとぬるま湯100mlを入れ、1分回す。さらしで包んで固く搾り、濃いココナッツミルク(一番搾り、約200ml)をとって取り分けておく。
二番搾りをとる
搾りかすをミキサーに戻し、ぬるま湯360mlを加えて1分回す。同じように搾り、薄いココナッツミルク(二番搾り、約350ml)をとる。搾りかすは使わない。
野菜を切る
玉ねぎは縦に薄切り、しょうがは細切り、にんにくは薄切りにする。青唐辛子4本は縦に切り目を入れる。トマトは1cm厚さの輪切りにする。カルダモンは指で押してさやを軽く割る。
魚を焼く
魚の表面に出た水気をもう一度拭く。フライパンにココナッツオイル26gを中火で熱し、魚を並べ入れる。水気が残っていると油がはねるので、ふたを盾にして入れるとよい。片面1分ずつ、表面が白く固まって薄く色づくまで焼き、皿に取り出す。中まで火を通さなくてよい。
スパイスと香味野菜を炒める
同じフライパンにココナッツオイル13gを足して中火にかけ、シナモン、カルダモン、クローブを20〜30秒炒める。しょうが15g、にんにく12g、青唐辛子4本を加え、生の香りが消えるまで1分炒める。
玉ねぎを炒める
玉ねぎ200gとカレーリーフ10枚を加え、5〜6分、しんなりして透き通るまで炒める。色をつけないようにする。
二番搾りで煮立てる
ターメリック0.7gを加えて10秒混ぜ、二番搾り(約350ml)を全量と塩9gを加える。混ぜながら中火で煮立てる。
魚を煮る
弱火にし、焼いた魚を1段に並べ入れる。上にトマトの輪切りとカレーリーフ10枚をのせる。表面が静かにふつふつする火加減で6〜8分煮る。途中で混ぜず、フライパンをゆすったり、スプーンで煮汁を魚にかけたりする。いちばん厚い切り身を1切れ割り、中まで白く不透明になっていれば煮えている。
一番搾りで仕上げる
いちばん弱い火にして、一番搾り(約200ml)を回し入れ、フライパンをゆすってなじませる。縁がふつふつしはじめたら、煮立てる前に火を止める。レモン汁10mlを回し入れてゆすり、ふたをして5分おく。
アッパムやご飯、パンと一緒に食べます。
料理科学:ココナッツミルクを2回に分けて入れる理由
長く加熱すると脂が分かれやすくなる
ココナッツミルクは、ココナッツの脂肪が細かい粒になって水に散らばった液体です。この状態を乳化といいます。脂肪の粒は、ココナッツのたんぱく質に包まれて水の中で安定しています。
食品科学の研究者タングスプームとクープランドは、ココナッツミルクを50〜90℃で1時間加熱する実験をしました。加熱すると脂肪の粒どうしがくっついて集まりやすくなり、80℃を超えると粒が合わさって大きくなる現象も少し見られました。別の実験では、添加物を加えずに90℃や120℃で1時間加熱したココナッツミルクで、脂肪の粒が合わさったり集まったりしました。研究者はこれを、ココナッツのたんぱく質が熱で変性して集まるためと説明しています。
脂肪の粒が合わさると、ソースが分離して表面に油が浮きます。手順8〜9で魚を煮るのに使うのは、水分が多く脂肪の少ない二番搾りです。脂肪の多い一番搾りは、手順10で火を止める直前に加え、煮立てずに温めるだけにします。こうすると、一番搾りのなめらかさとココナッツの香りが残ります。
混ぜずにゆする
一番搾りを加えたあとにお玉で強く混ぜると、煮えた魚が崩れます。ケーララ州観光局のレシピも、火から下ろして魚が崩れないように混ぜながら一番搾りを加え、弱火で温め直して、煮立てないようにするとしています。この記事では、フライパンをゆすってなじませます。
料理科学:魚を先に軽く焼く理由
表面を固めて煮崩れを防ぐ
煮えた魚の身は、肉と比べてほぐれやすく、煮汁の中で動かすと崩れます。手順5で表面だけを焼くのは、外側を先に固めて、煮汁の中で動かしても身が崩れにくくするためです。この記事で配合の参考にした魚のレシピ7本のうち5本も、魚を先に焼いてから煮汁に入れていました。中まで火を通さずに取り出すのは、煮汁の中でちょうど火が通るようにして、身がぱさつくのを防ぐためです。
最後のレモン汁
手順10のレモン汁は、ケーララ州観光局のレシピにならって加えます。ココナッツミルクのまろやかな味に、軽い酸味が加わります。
日本で選ぶ魚
- サワラ:ガルフ・ニュースやアンウェーシャナムのレシピが挙げる、英語でシーアフィッシュやキングフィッシュと呼ばれる魚は、ケーララで「ネイミーン」(neymeen)と呼ばれるサワラ属の魚です。日本のサワラも同じサワラ属です。
- マナガツオ:ケーララ州観光局のレシピは「アーヴォーリ」(avoli、英語でポンフレット)を使います。マナガツオの仲間です。骨つきの輪切りにして、サワラと同じ時間で煮ます。
- 白身の魚:ヴァニタのレシピのひとつは、ケーララの川や汽水の魚「カリミーン」(karimeen、英語でパールスポット)を使います。日本にはいない魚なので、タイやスズキの切り身で代用します。
- エビ:K.M.マシュー夫人のレシピのように、エビでも作れます。エビは焼かずに、手順9で生のまま加え、3〜4分、色が変わって丸まるまで煮ます。
家庭による違い
- 魚を焼かない:ケーララ州観光局とタニヤ・マシューのレシピは、生の魚をそのまま煮汁に入れます。
- シナモンなどを使わない:ケーララ州観光局のレシピはマスタードシードを、K.M.マシュー夫人のエビのモーリとヴァニタの別のレシピは黒こしょうの粒を使い、シナモン、カルダモン、クローブは入れません。
- とろみを足す:ヴァニタの別のレシピはコーンスターチかカシューナッツのペーストを、ガルフ・ニュースのヴァルギースのレシピはカシューナッツとココナッツのペーストを、アンウェーシャナムの別のレシピはカシューナッツのペーストを加えます。
- 酸味の材料:ヴァルギースのレシピはライムの果汁を使います。アンウェーシャナムの別のレシピは、材料にココナッツ酢を挙げています。
- 唐辛子の粉で下味:アンウェーシャナムのレシピのひとつは、魚の下味にレッドチリパウダーを使い、油で焼いてから煮ます。
手に入りにくい材料の代用
- ココナッツ(すりおろし):ココナッツミルクの缶(400ml)1缶で代用できます。缶を振らずに開け、上の濃い部分200mlを一番搾りの代わりに、残り200mlに水150mlを加えて二番搾りの代わりにします。ぬるま湯100mlと360mlは使いません。乾燥したココナッツファイン125gを使う場合は、一番搾りのぬるま湯を熱湯220mlに替えて15分浸してから、手順2と同じようにミキサーにかけて搾ります。
- カレーリーフ:さわやかな香りのある、ミカン科の木の葉です。代わりになるものはないので、手に入らなければ入れずに作ります。
- 青唐辛子:ししとう4本で代用できます。辛みはほとんどなくなります。
- サワラ:「日本で選ぶ魚」を参照してください。
保存
- 冷蔵:保存容器に入れて2日。温め直すときは弱火にかけ、煮立てないようにします
- 冷凍:ココナッツミルクのソースが分離しやすく、魚も崩れやすくなるため、おすすめしません
南インドのほかのレシピ
もっと知りたい人へ
出典
- Kerala Tourism「കേരള ഫിഷ് മോളി」(マラヤーラム語)
- Vanitha「എളുപ്പം തയാറാക്കാം ഫിഷ് മോളി; ഈസി റെസിപ്പി ഇതാ!」(マラヤーラム語)
- Vanitha「അപ്പത്തിനും ബ്രെഡിനും ഒപ്പം രുചിയൂറും ഫിഷ് മോലി, ഈസി റെസിപ്പി!」(マラヤーラム語)
- Anweshanam「ഫിഷ് മോളി തയ്യാറാക്കാം…」(マラヤーラム語)
- Anweshanam「ഈ കറിയെ വെല്ലാന് ആരുണ്ട് ?」(マラヤーラム語)
- Onmanorama「Kerala's own fish molee」(英語)
- Onmanorama「Prawns molee – a creamy coconut curry with a historic touch」(英語)
- Gulf News「The Portuguese reason for Kerala fish molee」(英語)
- Kerala Tourism「Christian Cuisine」(英語)
- Essence of Life - Food「Meen Moilee (Fish Molee) – The Authentic Cochin Christian Recipe」(英語)
- The Star「Fish Molee」(英語)
- Wikipedia「Fish moolie」(英語)
- AGRIS (FAO)「Effect of heating and homogenization on the stability of coconut milk emulsions」(英語)
- Penn State Research Database「Effect of thermal treatments on the properties of coconut milk emulsions prepared with surface-active stabilizers」(英語)
本文とレシピは、上の情報源を比べたうえで独自に組み立て直したものです。